ジョイス・ライスが語るジャンルレスな音楽観と根底にあるR&B、Crystal Kayと日本の音楽について

Y2Kな音楽ルーツ、Crystal Kayへの共感

―前回の来日公演ではティードラ・モーゼスの「Be Your Girl」(2004年)も歌ってくれました。ケイトラナダがこの曲をハウス風にリミックスしたバージョン(Kaytranada Edition)を2018年に公式にリリースしていたので、ケイトラナダを介してあなたとティードラも繋がっているのかなと勝手に想像していたのですが。

ジョイス:ティードラとはまだ会ったことがなくて。でも、そのうちに会えたら嬉しい。彼女の声は心をリラックスさせてくれる。うっとりさせる心地よさで、ストーリーテリングにも共感できるし、唯一無二だと思う。特に「Be Your Girl」を聴くとファンタジーの世界に誘われて、まるで彼女が語っている言葉を実体験しているような感覚に陥る。だから、彼女が誰からインスピレーションを得ているのか気になる。あの曲を歌うたびに思うんだけど、私たちの声はぴったり合ってる。深い繋がりを感じているし、ぜひ共演したい。会って彼女の体験について話を聞いてみたい。たしか音楽をやっている双子の息子さんがいて(筆者註:ティードラがラッパーのラス・キャスとの間に儲けたラス・オースティンとタージ・オースティンで、コースト・コントラのメンバー)、ひとりには会ったことがあるけど、ティードラとも一緒に曲作りもしているんじゃなかったかな? なんだか、この質問のおかげでいろいろとアイディアが浮かんできた。



― 『Overgrown』のいくつかの曲はミュージック・ビデオでのダンスも含めて、いわゆるY2K色が濃厚で、来日公演でもシアラやエイメリー、タミア、アリーヤ、ブランディ、ジャネット・ジャクソンなどを彷彿させる瞬間がありました。そうした雰囲気は、やはり自然に滲み出てくるものでしょうか?

ジョイス:間違いなく自然に滲み出てくるもの。今挙げてくれた名前は全員、小さい頃から夢中になって聴いたり、ビデオを観たりして研究した人たちばかり。振り付けも大好きだし、とにかくポップ・スターが好きだから。自分の姿を彼女たちと重ね合わせて共通点はないかって探ったり、もう釘付けだった。だからそういう雰囲気が自然に出てくるんだと思う。あの時代ほど存在感のあるアーティストはいないと思っているから、どうしても研究する対象となるとジャネット・ジャクソンやブリトニー・スピアーズ、アッシャーになっちゃう。ただ、そうした人たちから受けたインスピレーションをヒントに、同時に自分のスタイルとして打ち出しながら、それを新鮮で時代に合った形で確立できるよう意識している。そうやって自分に対してハードルを上げている感じかな。

―以前、VOGUE JAPANの公式YouTubeチャンネルで「マライア・キャリー、自身のカバー曲を歌うファンのYouTube動画を絶賛!」(2018年)というのを観ていたら、あなたが「Heartbreaker(Remix)」(99年)を歌う動画をマライアが褒めていました。マライアもアイドルのひとりだと思いますが、あなたの力強くも抑制の効いたヴォーカルのルーツを教えてください。

ジョイス:マライアにはまだ会えていないけど、いつか会う日がくるのを夢見ている。大物アーティストが授賞式なんかで功績を称えられる時に、他のアーティストがその人の歌を歌うっていうの……よくあるでしょ、あれに選ばれたいなって思う。絶対会えるはず!

マライアはヘッド・ボイスもファルセットもチェスト・ボイスも自由自在にこなしているけど、私の声のソフトな部分はブランディの影響じゃないかな。彼女の歌い方はすごくソフトでしょ? 私はチェスト・ボイスをあまり使ってないだけで、実はかなり出るんだ。自分がチェスト・ボイスで歌ってるのは、『Overgrown』に収録されている曲だと「So So Sick」、それに「On One」もどちらかというとそんな感じだと思う。ボイス・コーチとレッスンしている中でわかったのは、私の声ってチェスト・ボイスとファルセットはかなり強いんだけど、ヘッド・ボイスはあまり積極的に使っていない。だから今はそれを開発して、完璧に使いこなせるようになりたいと思ってる。コーチとのトレーニングで、ホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーの難しい曲をカバーする中で、出そうと思えばかなりのところまで声が出ることを発見したから。私はソフトな歌い方で知られているかもしれないけど、音域も広いしパワーもあるから、違う面も披露したいという気持ちで、次のアルバムではそれを示したいと思っている。今はそれをレコーディングで発揮できることに意識を向けている。

―ボーカルでも新しい一面を見せてくれるのですね。

ジョイス:そういえば数年前、ラッキー・デイとのツアー中に小さなポリープができて、ツアー後に声が割れたり、音を保てないようになった。でも、その適度にかすれた感じが新しい個性になっていることにも気づいた。同時に、そういう時にツアー中や過酷な状況でも自分の声を取り戻して対処できるテクニックを身につける必要があることも痛感したけどね。



―向井太一の「朝が来るまで」(2017年)でもコラボしていましたが、日本の音楽についてはどうですか?

ジョイス:太一が私に声をかけてくれて、一緒に曲作りに参加させてくれたことはすごく感謝している。小さい頃からいろんな音楽を聴いて育ったけど、日本の音楽もずいぶん聴いてきた。Crystal Kayとかm-flo、CHEMISTRY、宇多田ヒカルはみんな私にとって大きなインスピレーションの源。特にCrystal Kayは、私みたいな容姿と生い立ちの子が同じように大好きな歌で頑張っている姿を見て嬉しかった。彼女のCDを持っているんだけど、共通の友達がサインをもらってくれたことがキッカケになって本人と連絡を取り合うようになった。実はUMIとやった「That's On You」のリミックス(Japanese Remix)に参加してもらう予定だったけど、残念ながらそれは実現しなくて。でも、いつかコラボしたいと思っている。コナ・ローズも気になっていて、彼女も黒人と日本人のミックス(筆者註:父親は90年代後半にモータウンの社長を務めた故ジョージ・ジャクソン、母親はマイケル・ジャクソンのバック・ダンサーを務めたユーコ・スミダ・ジャクソン)で、日本でも活躍したいって頑張ってる姿を見ていて励みになる。あと、Awichも好き。彼女が成功していく姿も、見ていて嬉しくなる。それから演歌! 演歌ってすごく素敵だと思う。もしかしたら演歌の曲を出しちゃうかもしれない(笑)。そういえばKiinaとも友達になった。改名前の名前は氷川きよし、ね。パワフルでソウルフルな大きな声が大好き。あとは……吉田美奈子の「TORNADO」をカバーしてみたい。大好きで、歌うのは難しいけど、すごく素敵な曲だから。





―吉田美奈子の「TORNADO」はあなたにカバーされることを待っているような曲と言ってもいいかもしれません。ぜひ実現させてほしいです。

ジョイス:これからもっと日本語で歌いたいと思っているから、いろいろと実現させようと取り組んでいるところ。日本にいる友達にも「おすすめの曲をどんどん送ってね」って頼んである。懐かしい系が多いんだけどね。まだまだ勉強中。今は新しいアルバムの制作中だから、最近はずっと新曲に取り組んでいる。それに人間としてさらに成長できるよう、自分らしく毎日を送っている。現状に甘んじないで、自分自身をもっと深いレベルで知るためにね。私は難しい出来事が起こるといつも逃げ出したり、嫌なことから距離を置いてしまうところがあったんだけど、それに向き合わない限り、また自分に降りかかってくるわけだから、時間がかかっても物事を次の段階へ進めるよう自分を駆り立てるようにしている。だから、次のアルバムではジョイス・ライスの別の面を紹介できると思う。予想外で予測不可能で初めて見せる面。それを知ってもらう準備ができたと感じているから、早くお披露目したい。

―Tiny Desk Concert(2022年10月公開)も観ました。普段とは違ったオーガニックなスタイルでのライブでしたよね。こういう感じのライヴを普段の公演でやることはあるのですか?

ジョイス:あまりやっていないんだけど、本当はもっとあんなスタイルでやりたいと思ってる。ソフトな歌い方の私にとっては、激しいトラックやドラムと張り合わなくていいから自分の声が映えるし、生の楽器だけで歌うのって温かみがあって親しみやすくて自分の耳にも心地いい。最小限のシンプルなスタイルは大好きだし、自由度が高いのも魅力。キーボードやギターだけの演奏で歌っている動画も投稿していきたいし、ああいうスタイルで短いツアーをするのもいいなって思う。



―5月のビルボードライブ公演も楽しみです。バンド・メンバーは前回と同じジョンテ・ロバーツ(Key)とブランデン・アキニエル(Dr)で、今回はダンサーがふたりですが、前回の公演との違いも気になるところです。

ジョイス:今度の日本公演は、イントロもアウトロもセットもアレンジも振り付けも前回とは違う。間違いなく新曲が含まれるし、『Motive』の収録曲を披露するのも楽しみ。まだ調整中だけど、サプライズでゲストを呼ぶかもしれない。前回のビルボード公演はコロナの真っ只中で制約があったけど、今回はお客さんとの掛け合いとか、もっとリラックスできるのが嬉しい。一緒に大きな声で歌ったり、体を動かしたりできるし、間違いなく盛り上がるはず。めちゃめちゃ楽しみにしてる!



ジョイス・ライス来日公演

2024年5月17日(金)
神奈川・ビルボードライブ横浜
1stステージ OPEN 17:00 / START 18:00
2ndステージ OPEN 20:00 / START 21:00
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2024年5月19日(日)
東京・ビルボードライブ東京
1stステージ OPEN 15:00 / START 16:00
2ndステージ OPEN 18:00 / START 19:00
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2024年5月21日(火)
大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ OPEN 17:00 / START 18:00
2ndステージ OPEN 20:00 / START 21:00
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チケット:
サービスエリア 8,900円
カジュアルエリア 8,900円(1ドリンク付)

Translated by Aya Nagotani

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